あーりーでいず。

彼女はとても変わっている
小さな町の小さな商店街の中、人通りもまばらな駅前にある小さな喫茶店
彼女はそこでただ一人のウェイトレス、そして俺はマスターを務めている

・・元々俺のバイト先だったココには「おやっさん」・・無口だが気の良い初老のマスターがいた
過去形であるように彼はもうここにも、というかこの世に亡く・・何の因果かバイト君の俺がこの店の二代目として今こうして働いている
・・何故?どうして?・・とも思ったが、俺はこの店と、この町の雰囲気が気に入っている。
ここで一生を終えようかとも考えている俺にはおあつらえ向きだった

さっき言った彼女・・カウンターでコーヒー豆を煎る俺の目線の先にいるその娘
にこにこと微笑みながら、客に俺が先ほど入れたコーヒーを出している
トレイを抱えて戻ってくる彼女は、やはりその微笑みを絶やさない
ウェイトレスの可愛らしいエプロンドレスと相まって、それは彼女の魅力の一つとなっていた

「マスター、ハムエッグお願いしますね」
「・・お、おう」

迂闊にも見とれていた俺は間近にまで迫った笑顔に驚かされて、顔を赤くしながら調理の支度を始める
・・後ろでは彼女がサラダディッシュを3枚並べ、別メニューの支度に入っていた

「若いねぇ・・」
「や、やだなぁ・・俺らはそーゆー関係では・・」

窓際に腰掛けた常連の老人のつぶやき・・その意味は間違ってはいない
確かに俺と彼女は大きく考えると「そういう関係」ではあるのだから

おおっぴらにしていないだけで、俺と彼女は「恋人」・・あるいは「恋人以上」の関係にある
・・おおっぴらにしていないとは言っても小さな町だ、訪れる人間はやはりこの町の住人が多いし
たまに駅からこの町を訪れる人間がいても・・「雰囲気で簡単にわかる」らしい。

愛想も良く料理も得意、やや童顔でスタイルは抜群、頭脳も判断力も、運動神経すら俺より上
そんなパーフェクトに近い彼女・・俺なんかにはもったいない娘だと、たまに訪れる高校時代の友人は言う
・・さっきの様子を見ればわかるように、俺はこの店で仕事をしている最中ですら気にしてしまうほど、彼女を可愛いと思っている

・・可愛いとは思うのだが・・



午後7時30分、商店街の他の店よりもやや早い時間にこの店は閉店となる
店内には俺と彼女の二人だけ・・掃除をして、食器の後片付けをして、俺は制服を着替える
・・不意に彼女が背後から抱きついてきた

「・・あの、御優さん・・?」

俺は思わず彼女の名前を呼ぶ・・「みゆう」と。
・・彼女は俺の口に指を添えて制すると、悪戯っぽい笑みを浮かべて

「二人の時は「ミュウ」って呼んでくださいよ、キラさん♪・・ああ、やっぱり頼りがいのある大きな背中です・・」

・・と言った

「・・俺の名前は輝良です・・」

よくある名前とは一文字違いで読みづらいが、俺の名前は「きりょう」だ
御優・・もとい、ミュウさんは「きら」としか呼んではくれないが

「ま、そんな事はどうでもいいんです♪さぁ・・早く支度してくださいね?すぐにお出かけですよ」
「・・・はい・・」

ため息をつきつつ、俺は彼女についてフラフラと歩き出した
昼間の俺達は「マスター」と「店員」の関係だが、閉店後・・夜になるとその上下関係は逆転する
彼女が俺の「頭」で、俺は彼女の「部下」だ

彼女は顔や性格から判断出来るほど浅い人間ではなく、だからこそ今こうして俺は彼女に「使われている」のだから


この喫茶店の・・そして先代マスターの正体。俺はこの店を継いで、彼女がやってきた日の翌日にそれを知った
いつものように店のドアに鍵をかけ、ブラインドを閉めて・・そして帰路がアパートの近くまで同じだと言う彼女を送り、俺は誰もいない自宅に入る
両親なんかとっくにいないし、兄弟も同居人もいない
・・もう慣れたもので、俺は玄関の鍵をかけるとさっさと自室に戻り、軽くビール一缶を飲み干して床についた

問題はこの翌朝から始まるワケだ。

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「ん・・・」

アレ?・・俺なんで何も着てないんだ?
ベッドから上体を起こし、その小さな変化に気がつく
酒に弱いくせに酒好き、変な癖のある俺だからな・・きっと寝る間に脱いじまったんだろ
とりあえず着替えを・・と思って起きあがると

「・・うぅん・・♪」

・・声がした
・・隣?俺のベッドの中?
おそるおそるシーツをめくってみると・・あの娘が・・

「・・・・・・・」

俺と同じ状態でそこにいた
絶句したさ、そりゃ(汗)

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「・・しかしまぁ、ミュウさんはこんなお仕事続けてて大丈夫なんですか?危ないし夜更かしするし、そろそろ普通の喫茶店に・・」
「責任」

その二文字で俺の心臓が大きく鳴った
そして顔が紅潮していくのがよくわかる

「・・私の初めて・・」

・・次の瞬間、俺はそこに土下座していた

「す・・すみませんっ!!俺が悪ぅございましたッ!!(泣)」
「♪」

彼女は俺の頭を撫でると

「・・頭を上げてくださいキラさん、あなたは私の大事な旦那様なのですから♪」
「・・・・・・」

さっきまで泣きそうになっていたのにまたこの微笑みだ・・

・・あの日、俺はどうやら・・その・・彼女と・・・・「責任」をとらなきゃならない何かがあったらしい。
そんな事に興味すらなかった俺が「飲んだ勢いで」なんて・・ああ、やっぱ酒なんか飲むもんじゃない(泣)
そもそもなんで彼女がウチにいたのかもさっぱりなくらいなんだから・・
おかげで俺は彼女と婚約する「羽目に」なってしまった・・というか、もう結婚した事になってるらしい(汗)
いや「羽目に」ってのはアレか・・、普段の彼女を考えれば羨ましがられるくらいの事なんだろう

・・婚約とは言っても、ほとんどあの事を盾に俺がこき使われるだけなんだが(汗)

彼女は実は先代マスターの孫で、しかもそのマスターの正体というのがとある「ヤの字組」の「頭」だったというのが驚いた
組の頭を彼女・・ミュウさんに譲ったマスターは喫茶店を開業、一人で残りの生涯を終えようとしていた
・・そこへ高卒後、職を探していた俺がフラフラと・・
マスターは俺の「素質」を見込んだらしく、その見込まれた俺ならば組の未来に必要な人材だと思ったらしい
・・なんで俺がヤの字のお仕事に・・何の「素質」が?と思ったのだが

実際にその現場を見た時は、もうそんな考えはぶっ飛んでいた
夜・・ミュウさんと「組」の人達に町はずれに連れてこられた俺は、そこで目撃する事になる

「・・なんですか・・あの「怪物」・・?」
「宇宙人ですよ♪」

・・あんまり答えになってない返答と同時に、その10メートルはありそうな人型の「宇宙人」は動き出して、俺たちを襲う
ミュウさんに引っ張られて逃げる俺・・そしてそれを合図に周囲の建物の上に居たヤの字の人たちが手にした銃を一斉に放った
銃弾を受けた「宇宙人」は一瞬怯むが、すぐにまた大きさを利用した打撃を仕掛けてくる

「な、なんなんですかっ!?」
「敵ですよ♪」

やっぱり答えになってない・・
俺を連れているというのにも関わらず、ミュウさんはひらりと宙に舞い、「宇宙人」の攻撃をかわす
・・やがてミュウさんが俺に一丁の銃を渡した

「さ、キラさん戦ってください、できるハズです」
「・・・えええ??」
「ぼやぼやしてるとお爺さまの二の舞ですよ♪」
「や、やっぱマスターもこんな仕事してたんですかっ!?」
「それに、あれをやっつけないと地球に明日はないですよ?」
「・・・・・・」

よくわからないが、彼女達は俺が思っているヤの字とはひと味違うらしい
俺は持つのも初めてな銃・・それも、特撮番組のような奇抜なデザインのそれを握った

「・・!!」

放った銃弾はたったの一発・・
よく引き金が引けたと思うが、相手が人間でなかった事もあるんだろう
飛んでいくのは変な光・・火薬の音がしなかった所を考えると、ホントに特撮番組で使っているようなエネルギー弾?
光が直撃した次の瞬間・・眩しくて目を瞑ったその直後に、怪物はどこへともなく消え失せていた

「やはりお爺さまの見込み通りのお方ですね♪」
「・・え?」
「あの銃は特別製、撃てる適正のある人間は地球人類の0.000001%にも満たないとか」
「・・・ええ??」
「キラさん・・いえいえ「旦那様」♪これからもよろしくお願いします♪」

非常識な怪物に非常識な武器、それらを使う非常識なヤの字の人たち・・そしてそれを統べる非常識な女の子(と言っても同い年)
何が何だか・・の内に、俺はその非常識な世界に取り込まれてしまった。

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1948年2月、地球、日本を密かに訪れ襲っていた悪性宇宙人
地球人類を守るために戦い続けたのは一人の若きヤクザ者だった。
1999年5月、戦死した彼に変わりそれと戦うのは彼の作った一大任侠組織「村雨組」と、それを統べる一組の若年夫婦。

何が何だかわからんが、立て、小鳥遊輝良!
つーか立つしかないぞ、小鳥遊輝良!




※1.半分以上脅されてますが
※2.何故敵が一つの町ばかり襲うのかはよくわかりません
※3.無理矢理なのはもう慣れました(作者が)


登場人物・・
「主人公:小鳥遊輝良」(たかなしきりょう)→キラ
 →実は結構不良な面もあり、右を左で生きてきた青年、19歳。先代の村雨剣に見込まれ、さらに対地球外生命体兵器である「銃」を撃てた事から村雨組に強制参加。

「主人公2:村雨御優」(むらさめみゆう)→ミュウ
 →お嬢な台詞に見た目も中身も最上級、ただし根本が「ヤの字」、19歳。地球外生命体と戦い続ける正義のヤクザ、村雨組の女頭。

「ヤの字のひとたち。」(村雨組の)
 →全国各地のヤクザとはひと味違う、義理と人情とビジュアル命の近未来派集団。優男系が多いが血の気も多く、また強い。輝良と御優には文句も言わず妄信的に絶対服従(笑)





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